ABC(活動基準原価管理)

更新日:2024年09月10日

活動基準原価管理の背景と基本概念

活動基準原価管理(Activity-Based Costing、以下ABC)は、ビジネスや経営戦略において重要なコスト管理手法の一つであり、この手法は従来の原価計算の限界を克服し、より精緻なコスト情報を提供することを目的としています。従来の原価計算手法(例えば、直接原価計算や吸収原価計算など)は間接費の配賦が問題となることが多く、その中でも配賦基準の問題として、従来の手法では間接費用を直接労働時間や機械稼働時間などの単純な基準で配賦するため、実際の原価消費の実態を正確に反映しきれないことが多々あります。また、現代の複雑な製造環境では間接費が増大する傾向にあり、特に高付加価値の製品やサービスにおいては間接費の割合が高くなるため、これを正確に把握することが困難です。これらの課題を乗り越えるために登場したのがABCです。ABCは、間接費用を活動(Activity)ごとに集計し、その活動が製品やサービスにどのように貢献しているかを分析する手法であり、活動の定義、コストプールの設定、コストドライバーの特定、コストの配分というステップで進行します。最初に会社内の主要な活動を洗い出し、次にそれぞれの活動に関連するコストプールを設定、コストドライバーを特定し、最後にコストドライバーを基にして各製品やサービスに活動コストを配分することで、より精密な原価計算が可能になります。活動の定義では、企業内で行われている全ての活動を洗い出し、これらの活動が企業のどの製品やサービスに関連しているかを特定することが重視され、次に各活動ごとにコストプールを設置し、例えば製品の設計活動のコストプールや、品質管理活動のコストプールなどがあります。次に、各活動がどのようにコストを発生させるかを明確にし、具体的には、設計変更の回数や品質検査の回数などがコストドライバーとなります。最後に、コストドライバーを基にして各製品やサービスに活動コストを配分することで、各製品やサービスが実際にどれだけのコストを消費しているかを正確に把握することができます。

ABCのメリットとデメリット

ABCには、多くのメリットがあります。第一に、コストの正確性向上が挙げられます。ABCは間接費の配分を精緻に行うため、製品やサービスごとのコストをより正確に把握でき、価格設定や製品ラインの判断がより的確になります。第二に、非付加価値活動の削減が促進され、非付加価値活動のコストが明確になるため、これを削減する努力が促されます。第三に、経営意思決定の支援にも大いに貢献します。ABCは複雑なコスト構造を明確にするため、経営者が資源配分や戦略的な意思決定を行う際の有力な情報源となります。一方で、ABCにはいくつかのデメリットも存在します。まず、導入コストが高いことが挙げられます。ABCを導入するためには、詳細な活動分析やコストドライバーの特定など、かなりの時間とリソースが必要です。次に、データの複雑性が問題となり、多くのデータを取り扱うため、これを管理するためのシステムやスキルが必要となります。また、データの正確性が求められるため、継続的なデータ管理と更新が不可欠です。さらに、社員の抵抗も見逃せない問題です。新しいコスト計算手法の導入には社員の抵抗がある場合があり、特に従来の手法に慣れている社員や管理職はABCの導入による業務変更を嫌うことがあります。具体例としてある製造会社でのABC導入を考えると、その会社では製品Aと製品Bを製造しており、設計活動、材料調達活動、製造活動、品質検査活動といった各活動のコストプールとコストドライバーを設定しています。設計活動のコストプールは200,000ドル、材料調達活動は150,000ドル、製造活動は500,000ドル、品質検査活動は100,000ドルで、それぞれのコストドライバーは設計変更の回数、調達注文数、製造時間、検査の回数です。このように具体的に各活動ごとにコストを細分化して配分することにより、製品Aと製品Bの合計コストを正確に把握することが可能となります。

まとめと導入のポイント

活動基準原価管理(ABC)は、企業のコスト構造を緻密に把握するための強力な手法であり、導入には多くのリソースと時間が必要ですが、その結果として得られるメリットは非常に大きいです。製品やサービスのコストを正確に把握し、経営戦略の策定や資源配分の最適化、さらには非付加価値活動の削減といった多岐にわたる効果が期待できます。ABCを効果的に導入するためには、徹底した活動分析とデータ管理、社員の教育と協力が重要であり、これらを適切に行うことで、企業は競争力を保持し、持続的な成長を遂げることが可能となります。このようにして、ABCは企業にとって非常に有益な手法である一方、詳細な導入計画と継続的な運用が必要不可欠です。企業はこれらの要素を適切に管理することで、ABCを最大限に活用し、市場での競争力を維持しつつ、持続可能な成長を実現することができます。最終的には、ABCを通じて得られる精確なコスト情報を基に、企業はより効果的な経営戦略を策定し、リソースを最適に配分することで、全体としての効率性を高めることが求められます。したがって、ABCは単なるコスト計算手法にとどまらず、企業の経営全体を支える重要なツールとして位置付けられるべきです。