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更新日:2024年09月10日
「ストロング型市場」(Strong-form Efficiency)は、ビジネス、財務、会計の分野で重要な概念であり、効率的市場仮説(Efficient Market Hypothesis, EMH)の一部です。効率的市場仮説は、金融市場における価格設定メカニズムに関する理論であり、市場が利用できる情報を完全かつ即時に価格に反映すると仮定しています。EMHはその効率性の度合いによって、ウィーク型(Weak-form Efficiency)、セミストロング型(Semi-strong form Efficiency)、そしてストロング型(Strong-form Efficiency)の3つに分類されます。ここでは主にストロング型市場について詳しく説明します。ストロング型市場とは、市場価格が全ての情報を反映している状態を指します。ここでの「全ての情報」とは、公開情報(例えば財務報告書やニュースリリース)だけでなく、非公開情報(例えば企業内の役員が持つ内部情報)も含みます。ストロング型市場では、どんな情報であっても既に市場価格に反映されているため、投資家はその情報を利用して異常なリターンを得ることができないという状態です。ノーベル賞受賞者ユージン・ファーマが1960年代に提唱したEMHは、ウィーク型市場効率、セミストロング型市場効率、ストロング型市場効率の三つに分類されます。ウィーク型市場効率は過去の価格動向や取引量などの情報のみが市場価格に反映され、これらを活用して異常なリターンを得ることはできません。セミストロング型市場効率は公開情報も全て市場価格に反映されるため、これを基に異常なリターンを得ることが難しいとされます。そして、ストロング型市場効率は公開情報、非公開情報を問わず全ての情報が市場価格に反映されているため、どんな情報を活用しても異常なリターンを得ることができない状態を指します。
ストロング型市場の特徴として挙げられるのは、情報の全包埋性、完全透明性、アノマリーの不可能性です。情報の全包埋性により、全ての情報が瞬時に市場価格に反映され、内部情報を持っている者ですら一歩先行く投資成果を上げることができません。また、完全透明性の概念では、理論上は市場参加者全員が全く同じ情報にアクセスできる状態を想定します。このため、市場の効率性が完璧であるためアノマリー(市場の予測不可能な異常事態)や市場の歪みが存在しません。しかし、ストロング型市場効率は理論上非常に美しい概念ですが、現実には非常に達成し難いものです。これには情報の非対称性、内部取引、情報の流動性と解釈の差異が影響を与えます。実際には全ての情報が全ての市場参加者に等しく共有されているわけではなく、企業内部の決定情報や未公開の戦略等はごく一部の人々しか知らない場合が多いです。さらに、内部情報を利用して取引を行う内部者取引が完全に排除されることは難しく、よって完全なストロング型市場は成立し得ません。また、情報は単純に一つの解釈に集約されないため、市場価格への反映もその時々で異なります。
実務的にはストロング型市場を前提にすることは少ないものの、その理論は市場の透明性と公平性を高めるための規制づくりに寄与します。内部者取引の取り締まりや情報公開義務の強化などはその一例です。また、特にアクティブファンドマネージャーにとって、市場が効率的であるかどうかの議論は、投資戦略を考える際の重要な要素です。効率的市場に近いとされる市場では、インデックス運用などのパッシブ戦略が有効とされます。ストロング型市場効率は、全ての情報が完全に市場価格に反映されているという理論的な状態を指します。これは効率的市場仮説の中でも最も厳しい条件設定であり、実際の市場では達成が極めて困難です。しかし、ストロング型市場の概念は、金融市場の透明性や規制の必要性を考える上で非常に役立つ理論です。投資家や規制当局にとっては、どの程度市場が効率的であるかを理解し、それに基づいた適切な行動を取ることが求められます。