CAPM

更新日:2024年09月10日

基本概念と数式

資本資産評価モデル(CAPM: Capital Asset Pricing Model)は、1964年にウィリアム・シャープ、ジョン・リントナー、ジャン・モッシンが独立に開発した金融理論の一つで、特定のリスクを持つ資産(株式など)の期待収益率を求めるための指標として非常に有用なモデルです。このモデルの主な目的は、市場全体のリスクと特定の資産のリスクを関連付け、出資者が期待するリターンを推定することにあります。CAPMは資産価格の適正評価やポートフォリオ理論の基本概念を理解するための強力なツールとして、ビジネス・財務・会計分野で広く採用されています。CAPMの中心となる公式は以下の通りです:¥[ E(R_i) = R_f + ¥beta_i ¥times (E(R_m) - R_f) ¥] ここで、¥( E(R_i) ¥)は資産¥(i¥) の期待収益率、¥( R_f ¥)は無リスク利子率(例えば、国債の利回り)、¥( ¥beta_i ¥) は資産 ¥(i¥) のベータ値(市場リスクに対する感度)、¥( E(R_m) ¥)は市場の期待収益率、そして¥( E(R_m) - R_f ¥)は市場リスクプレミアムを表します。この数式により、特定の資産が持つリスクに見合った期待収益率を計算することができます。CAPMは、資産の適正価格を評価するための理論的基盤を提供し、期待収益率がCAPMによって示された値より高ければ、その資産は割安と見なされ、投資が推奨されます。逆に期待収益率が低ければ、割高と見なされます。ポートフォリオの多様化効果を考慮に入れることで、CAPMはポートフォリオのリスクを分散するための理論的根拠としても役立ち、異なるベータ値を持つ複数の資産を組み合わせることで、全体のリスクを最小化しつつ、期待収益率を最適化する方法を提供します。

主要コンポーネントとその意義

CAPMの主要なコンポーネントには、無リスク利子率(¥(R_f¥))、市場リスクプレミアム(¥(E(R_m) - R_f¥))、そしてベータ値(¥(¥beta_i¥))があります。無リスク利子率は、リスクが全くない投資から得られる利回りを指し、通常は短期の国債や中央銀行の預金金利などが基準となります。市場リスクプレミアムは、市場全体の期待収益率から無リスク利子率を差し引いたもので、リスクを取ることに対する追加のリターンを表します。ベータ値は、特定の資産が市場全体の動きに対してどれだけ敏感かを示す指標で、ベータ値が1であれば、その資産は市場全体と同じ程度のリスクを持つとされます。ベータ値が1より大きい場合、その資産は市場全体よりもリスクが高く、1より小さい場合は逆にリスクが低いとされます。CAPMは、資産の適正価格を評価するだけでなく、投資家がどの程度リスクを取るべきかの判断材料として非常に有用です。また、ポートフォリオの多様化効果を評価するための基盤を提供し、リスクとリターンのバランスを最適化するための手段を提供します。CAPMは、リスクとリターンの関係を理解し、資産価格の適正評価を行うための強力なツールです。

限界と進化

しかし、CAPMにはいくつかの限界も存在します。まず、CAPMの前提には現実とは乖離した部分があります。例えば、投資家はすべてリスク回避的で、市場は効率的に機能し、すべての情報が即座に反映されるといった仮定があります。しかし、現実の市場は完全には効率的ではなく、すべての投資家が同じ情報を持っているわけでもありません。さらに、CAPMは市場全体のリスク(ベータ)にのみ着目し、企業固有のリスクやその他のリスク要因(例:流動性リスクや政治リスクなど)を考慮していません。そのため、これらの要因を考慮したより複雑なモデル(例:ファクターモデル)が開発されています。CAPMの限界を補完するために、多くの研究者が新たなモデルを提案しており、その中でも多因子モデル(例えば、ファーマ-フレンチの3ファクターモデル)は、規模効果(Small Minus Big: SMB)や簿価対市場価値比(High Minus Low: HML)のような追加のリスク要因を考慮しています。ベータ値も過去のデータに基づいて計算されますが、将来の市場条件が過去と異なる場合には、ベータ値が正確にリスクを反映しないことがあります。結局のところ、CAPMは財務分析の基本スキルとして価値があるが、限界もあるため他のモデルや方法と併用することが一般的です。その簡潔さと理論的な美しさにもかかわらず、限界を理解し、現実の応用においては他のモデルと組み合わせて使用することが重要です。