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更新日:2024年09月10日
MM理論(Modigliani-Miller Theorem)は、1958年に経済学者フランコ・モディリアーニとメルトン・ミラーによって提唱された企業財務における資本構造理論の一つです。MM理論は企業の価値が資本構造に依存しない、つまり負債と株式の比率が企業の市場価値に影響を与えないと主張しています。この理論は企業財務や資本市場に関する多くの研究と議論の基礎となっており、その応用範囲は広範です。MM理論には主に以下のような前提条件があります。完全市場(すべての参加者が同じ情報を持ち、取引コストがゼロの市場)、無税環境(法人税、所得税などが存在しない)、同質的期待(すべての投資家が同じリスク評価と見通しを持つ)、借入と投資の非対称性がない(個人投資家が企業と同じ条件で資金調達できる)、破綻コストが存在しない(企業が破綻してもコストがかからない)の五つです。これらの前提に基づき、MM理論は企業の資本構造が企業価値に影響を与えないと結論付けています。MM理論には二つのメイン命題があります。第一命題(無税環境の場合)「企業の価値は資本構造によらず、将来のキャッシュフローの現在価値で決まる」との命題で、どのように資金を調達しようとも株式と負債の組み合わせが企業価値に影響を与えないとします。投資家がレバレッジを調整して企業の資本構造を模倣できるため、資本構造による価値創出は起こらないと主張します。第二命題(無税環境の場合)「企業の自己資本のコストは無負債企業の自己資本のコストに負債比率に比例するリスクプレミアムを加算したもの」という命題です。負債増加により株主のリスクも上がり、自己資本の期待収益率も上昇します。数式で表すと、期待収益率(ERe) = 無負債企業の期待収益率(ERu) + (ERu - 負債の期待収益率(ERd)) × (負債の時価総額(D)/株式の時価総額(E))です。
MM理論の初版から10年後の1963年、モディリアーニとミラーは理論を修正し、法人税を考慮に入れたバージョンを提案しました。この修正版では一部の前提が緩和され、以下の結論が導かれます。税制調整後の第一命題では、負債を使用する企業の方が無負債の企業よりも価値が高いとされています。負債の利用による法人税の節税効果が企業の価値を向上させるからです。具体的には、負債を使用する企業の価値(VL) = 無負債企業の価値(VU) + 法人税率(Tc) × 負債の額(D)となります。税制調整後の第二命題では、負債を使用すると株主の要求する期待収益率が増加し、リスクも増加するという結論が導かれます。数式で表すと、自己資本コスト(Re) = 無負債企業の自己資本コスト(RU) + (RU - RD) × (負債の額(D)/株式の額(E)) × (1 - 法人税率(Tc))となります。法人税が存在する場合、節税効果が自己資本コストの上昇を部分的に緩和します。
MM理論は、企業財務の基本概念を提供し、多くの後続研究に影響を与えました。しかし、現実の企業運営においては多くの制約や例外が存在します。MM理論の意義として、理論的基盤の提供(企業財務と資本市場に関する基本的な理論を提供)、資本構造の重要性(企業価値に対する資本構造の影響について理論的枠組みを提供)、税効果の考慮(税金が企業価値に与える影響を明示し、節税効果や資本コストに関する考察の基礎を築きました)があります。しかし、限界として、理論の前提条件(完全市場、無税環境、同質的期待など)が現実には存在しないこと、破綻コストの無視(現実の企業には破綻コストや金融苦難のコストが存在しますが無視されています)、エージェンシーコスト(経営者と株主、債権者間の利益相反やエージェンシーコストについては考慮されていないこと)、非対称情報(市場の情報が均一でない場合にMM理論はそのまま適用が難しい)が挙げられます。MM理論は、現実の複雑な状況を前提にした修正がさらに進められており、多くの新しい理論や実証研究が生み出されています。MM理論は現実の企業財務において一定の指針を提供しつつ、多岐にわたる応用と発展が続いています。