AD-AS分析

更新日:2024年09月10日

AD-AS分析の概要

AD-AS分析(Aggregate Demand - Aggregate Supply analysis)は、マクロ経済全体の総需要と総供給の関係を明らかにするための主要なフレームワークです。本分析手法において、総需要(AD: Aggregate Demand)と総供給(AS: Aggregate Supply)の各曲線とその特性、およびそれぞれの均衡点について説明します。AD曲線は価格水準と総需要量の関係を示し、右下がりの形状を持つ理由として、富効果、金利効果、純輸出効果が挙げられます。価格水準が低下すると、実質的な貨幣価値の上昇により消費が増加し、金利低下によって企業の投資活動や消費者の耐久消費財購入が促進されるため、AD曲線は右下がりとなります。一方、総供給(AS)曲線には短期総供給曲線(SRAS)と長期総供給曲線(LRAS)が存在し、それぞれ異なる特性を持ちます。SRAS曲線は右上がりで、価格硬直性や誤解効果によって短期的に生産量が変動します。対して、LRAS曲線は垂直で、技術や資本、労働力などの供給側要因に基づく潜在的生産量を示し、長期的には完全雇用状態に戻ることを前提としています。

AD-ASモデルの均衡と政策の効果

AD-AS分析の均衡点は総需要曲線と総供給曲線の交点で決まり、経済の価格水準と国民総生産(GDP)を決定します。短期均衡では、AD曲線とSRAS曲線の交点で実際の生産量と価格水準が規定され、インフレギャップやデフレギャップが生じる場合があります。長期均衡では、AD曲線とLRAS曲線の交点で経済は完全雇用状態にあり、潜在的生産量が実現されます。AD-AS分析は経済政策、特に財政政策と金融政策の効果を評価する際に有効です。例えば、政府支出の増加や減税はAD曲線を右へシフトさせ、総需要を増加させます。逆に、増税や政府支出の削減はAD曲線を左へシフトさせ、総需要を減少させます。同様に、中央銀行が金利を引き下げると消費と投資が増加し、AD曲線は右へシフトしますが、金利引き上げの場合はAD曲線が左へシフトします。このように、AD-ASモデルは経済政策の影響を評価するための強力なツールとなります。

シミュレーションの応用と批判

AD-ASモデルは政策シミュレーションや予測モデルとしても効果的です。例えば、天災や戦争による供給ショックが発生するとSRAS曲線が左へシフトし、価格上昇と生産低下を引き起こすシナリオが考えられます。また、消費者信頼感の向上や投資の急増により総需要が増加するとAD曲線が右へシフトし、短期的に生産量と価格水準が上昇する可能性があります。しかし、AD-ASモデルも万能ではなく、いくつかの批判を受けています。第一に、多くの経済の複雑な現象を単純化しているため、現実のすべての状況を正確に反映するわけではありません。第二に、動的要因が欠如しており、時間の経過とともにどう変化するかを十分に表現できません。第三に、供給側要因、特に長期における技術革新や資本蓄積が均衡に与える影響が過小評価されることがあります。結論として、AD-AS分析はマクロ経済の基本的市況を理解し、政策の影響を評価するための強力なツールです。この手法を適切に用いることで、政策決定者は経済政策をより効果的に設計し、経済の安定と成長を促進できます。