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更新日:2024年09月10日
IS-LM分析(Investment-Saving, Liquidity preference-Money supply analysis)は、ジョン・R・ヒックスとアルヴィン・ハンセンによって1930年代に提案されたケインズ経済学の一部を成すマクロ経済モデルです。このモデルは、財市場と貨幣市場の均衡を同時に分析するための非常に有力なツールであり、特に短期的な経済政策の効果を理解するために用いられます。IS-LMモデルは二つの主要な曲線、すなわちIS曲線とLM曲線から成り立っています。これらの曲線はそれぞれ、財市場と貨幣市場の均衡を表しています。IS曲線(Investment-Saving Curve)は投資と貯蓄の関係を表し、財市場が均衡する全ての国民所得(GDP)と利子率の組み合わせを示します。財市場が均衡するためには、総需要(消費、投資、政府支出)が総供給(国民所得)に等しくなる必要があります。IS曲線の傾きは、投資の利子率に対する感応度と、消費や貯蓄が所得によってどの程度変動するかによって決まります。政府支出や税制の変更、技術進歩などがIS曲線を移動させます。一方、LM曲線(Liquidity preference-Money supply Curve)は貨幣市場の均衡を表し、貨幣需要と貨幣供給が等しくなる全ての国民所得と利子率の組み合わせを示します。貨幣市場が均衡するためには、人々の貨幣需要が中央銀行の供給する貨幣量に等しくなる必要があります。LM曲線の傾きは、利子率の変動に対する貨幣需要の感応度と経済活動(国民所得)に対する貨幣需要の感応度によって決まります。中央銀行の金融政策や貨幣需要の変動がLM曲線を移動させます。このようにして、IS曲線とLM曲線が交わる点が、財市場と貨幣市場の両方で均衡する利子率と国民所得の組み合わせを示します。これは短期的なマクロ経済均衡を表し、政策決定者はこの点を変更するために財政政策や金融政策を用いることができます。
財政政策(政府支出の増加や減税)はIS曲線に影響を与えます。例えば、政府支出を増加させることで、IS曲線は右にシフトします。これは、財市場における均衡を高い国民所得と利子率に移動させます。経済全体の総需要を増やすための具体例として、政府が公共事業に予算を増やすと、総需要が増加し、その結果、IS曲線が右にシフトします。その新しい均衡点では、利子率が上昇し、国民所得も増加します。同じく、減税によって個人の可処分所得が増加し、消費が増えるため、同様にIS曲線が右にシフトします。これにより、新しい均衡点では高い国民所得と利子率が見られます。一方、金融政策はLM曲線に直接影響を与えます。中央銀行が金利を操作したり、貨幣供給量を調整することにより、LM曲線がシフトします。例えば、オープンマーケット操作により中央銀行が国債を購入して貨幣供給量を増やすと、LM曲線は右にシフトし、利子率が下がり、国民所得が増加します。同様に、政策金利を引き下げることで、貨幣供給が拡大し、LM曲線が右にシフトします。その結果、低い利子率で高い国民所得が実現します。これらの政策手段を駆使することで、経済の短期的な均衡点を調整することが可能となります。
IS-LMモデルは短期的な経済政策の効果を理解するための非常に有力なツールですが、その限界も存在します。例えば、このモデルは価格や賃金の硬直性を前提としており、短期的な分析に適していますが、長期的な動向やインフレーションの影響を十分に考慮していません。また、現実の経済は一つの市場だけでなく、複数の市場が同時に相互作用しているため、単純化しすぎているという批判もあります。しかし、それにもかかわらずIS-LM分析は経済状況を理解し、政策効果を予測するための基本的な枠組みとして広く用いられています。現代のマクロ経済学では、新しいケインジアン経済学やDSGEモデルなど、より複雑なモデルが開発されていますが、IS-LMモデルはその基本的な直観を提供し続けています。財政政策や金融政策が国民所得と利子率にどのように影響を及ぼすかを理解するためには、この分析が非常に有用です。しかし、適切に用いるためにはモデルの限界も認識しつつ、その結果を慎重に解釈することが重要です。こうした背景を踏まえ、IS-LMモデルを用いることで、政策決定者は短期的な経済政策の効果を予測し、経済の安定と成長を目指して効果的な対策を講じることが可能になります。このようにIS-LM分析は、ケインズ経済学の根幹を成し、経済政策の評価に大きな役割を果たし続けています。