グレシャムの法則

更新日:2024年10月10日

グレシャムの法則の概要と歴史

グレシャムの法則(Gresham’s Law)は、「悪貨は良貨を駆逐する」とされる貨幣経済の有名な原則です。この法則は、異なる品質の貨幣が同時に流通すると、価値の低い(悪貨)貨幣が市場で多く使われ、高価値(良貨)の貨幣が蓄積され市場から消える現象を指します。16世紀のイギリスの経済学者サー・トーマス・グレシャムにより提唱されましたが、この原則は古代から知られていました。例えば、紀元前にアテネで行われた貨幣改革では、純度の低い貨幣が発行され、その名目価値は以前と同じでも実質価値は低かったため、人々は純粋な貨幣を貯蓄し、不純な貨幣を日常の取引に使用しました。このような歴史的背景に基づき、グレシャムの法則は市場に複数の貨幣が存在するときの関係性と市場の反応を説明します。

グレシャムの法則のメカニズムと適用例

グレシャムの法則が働くメカニズムとして、異なる品質の貨幣が共存し、政府や中央銀行がそれらを名目上等価と宣言することで、市場参加者は実質価値の低い貨幣を使い、高価値の貨幣を蓄積するという現象が生じます。経済的不確実性が高い場合、良貨は「保存の手段」としての魅力が増します。現代でもフィアット通貨と暗号通貨の関係でこの法則が適用されます。フィアット通貨は政府の信任に基づくため価値は相対的ですが、ビットコインなどの暗号通貨はその発行仕組みや供給量から価値保存手段と認識されるため、フィアット通貨が日常取引で使われ、暗号通貨が蓄積されます。また、インフレーション率が高い国と安定した通貨が共存する場合も同様で、高インフレ通貨が取引に使われ、安定した通貨が保存される傾向があります。

政策的対応と結論

グレシャムの法則による問題を避けるため、政府や中央銀行は適切な政策を実施する必要があります。具体的には、単一品質の高い通貨の使用を奨励し、貨幣の純度と価値について厳格な基準を設定し情報を公表すること、そして必要に応じて通貨制度を改革し不純な貨幣の流通を制限することが重要です。このような対策により経済の混乱を最小限に抑え、金融システムの安定を図ることができます。グレシャムの法則は歴史的な現象に留まらず、現代経済にも影響を持つ重要な概念です。異なる品質の貨幣が並行して存在する場合、市場の選好や行動がどう変化するか理解することは、経済政策の策定や金融システムの安定化に役立ちます。今後も、この法則は経済学や政策決定の重要な視点を提供し続けるでしょう。