セントペテルスブルグの逆説

更新日:2024年10月10日

理論の背景とゲームの詳細

セントペテルスブルグの逆説(Saint Petersburg Paradox)は、期待値の計算と人間の意思決定に関する問題を提示する経済学および確率論の古典的パラドックスです。これは、18世紀初頭にニコラウス・ベルヌーイ(Nicholas Bernoulli)が初めて考案し、後に彼の従兄弟であるダニエル・ベルヌーイ(Daniel Bernoulli)が広く知られる形で発展させました。このパラドックスは特に、合理的な意思決定やリスク管理、期待効用理論に関する議論に大きな影響を与えました。このパラドックスは、以下のようなシンプルなゲームを基にしています:プレイヤーが参加するためには一定の金額(エントリーフィー)を支払います。ゲームは、公正なコインを使って行います。コインを連続して投げ、初めて表が出るまで続けます。最初に表が出た回数 ¥(n¥) に基づいて、プレイヤーには ¥(2^n¥) ダラーの賞金が支払われます。例えば、1回目の投げで表が出れば2ドル、2回目なら4ドル、3回目なら8ドル、といった具合です。このゲームの問題設定に基づいて期待値を計算すると、驚くべき結論が導かれます。無限大の期待値という結果は直感に反し、実際にはほとんどの人がこのゲームに非常に高額のエントリーフィーを支払いたいとは思わない、という事実が「パラドックス」となります。日常的な意思決定の行動では、人々は有限の範囲で合理的に選択を行います。このギャップがセントペテルスブルグの逆説の核心です。

ダニエル・ベルヌーイの役割と効用理論

ダニエル・ベルヌーイはこのパラドックスを解決するために、期待効用理論を提唱しました。彼は、人々は純粋な金額の期待値だけでなく、得られる効用(ユーティリティ)にもとづいて意思決定を行うと仮定しました。効用は金額に対して非線形であることが一般的です。ベルヌーイは、通常、効用が減衰する形、すなわち凹型になると提案しました。期待効用は有限の値となり、人々がこのゲームに支払おうとするエントリーフィーも現実的な範囲内に収まることがわかります。このパラドックスは、現代の経済学、金融学、リスク管理、意思決定理論で広く応用されています。特に以下の分野で重要な役割を果たしています:ファイナンスとポートフォリオ理論:投資家がリスクとリターンをどう評価するかをモデル化する際に、効用理論が応用されます。セントペテルスブルグの逆説が示すように、人々は期待値だけでなく、リスクや不確実性も重要視するため、資産の分散投資が推奨されます。

現代の応用と結論

行動経済学:現実の意思決定で観察されるバイアスや非合理的な行動を説明するため、効用理論が拡張されます。プロスペクト理論など、期待効用理論に代わる新しいモデルが提案されています。保険とリスク管理:保険契約やリスク管理戦略の設計において、プレミアム設定やリスク評価のために確率と効用の概念が応用されます。保険者と被保険者の双方が効用を最大化するような契約が検討されます。セントペテルスブルグの逆説は、期待値だけでは人間の実際の意思決定行動を説明するのに不十分であることを明らかにし、期待効用理論を発展させる契機となりました。この理論によって、人々がリスクや不確実性をどのように評価するかをより正確に理解することが可能となり、経済学や金融学、そして広くは意思決定科学において重要な貢献を果たしました。現代においても、このパラドックスは基本的な理論問題として研究され続けており、新たな発見や応用が期待されています。さらに、効用理論の発展によって、様々な経済活動や金融商品の設計、政策立案においても合理的な意思決定が可能となり、社会全体の効率性向上に寄与しています。