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- 物価版フィリップス曲線
更新日:2024年10月10日
物価版フィリップス曲線(Price Phillips Curve)は、英国の経済学者A.W.フィリップスが1958年に発表した研究をもとに発展した理論で、失業率と賃金上昇率の逆相関関係を示しました。このコンセプトを拡張し、物価上昇率(インフレ率)と失業率の関係を説明するのが物価版フィリップス曲線です。物価版フィリップス曲線は、失業率が低いほどインフレ率が高くなり、逆に失業率が高いほどインフレ率が低くなることを示しています。フィリップスの原論文は英国の賃金と失業率のデータに基づいていましたが、多くの経済学者が他国のデータでも同様の関係を確認しました。1960年代には、米国の経済学者サミュエルソンとソローがこの関係を価格水準、つまり消費者物価指数(CPI)や生産者物価指数(PPI)の変動に適用しました。彼らは、この「物価版フィリップス曲線」によって、経済政策がインフレ率と失業率のトレードオフを示すという考えを提唱しました。物価版フィリップス曲線の基本的な形は以下のように表されることが多いです。 ¥[ ¥pi_t = ¥pi^e_t + ¥alpha (U_t - U^*) + ¥varepsilon_t ¥]
物価版フィリップス曲線は、短期的な視点から経済政策のインパクトを評価するための重要なツールとして使われます。短期トレードオフ仮説では、政策当局が貨幣供給の調整などを通じて失業率を低下させられるが、その結果としてインフレ率が上昇します。期待インフレの重要性も現代のフィリップス曲線には考慮され、労働者や企業が予想インフレ率に基づいて賃金や価格を設定します。長期的には、失業率は自然失業率に向かって調整され、インフレ率は安定するという自動調整メカニズムがあります。しかし、物価版フィリップス曲線の実証には多くの議論と意見の相違が存在します。特に1970年代の「スタグフレーション」は、フィリップス曲線の有効性に疑問を投げかけました。これに対して、フリードマンやフェルプスは、期待インフレ率が実際のインフレ率に大きな影響を与えるとする「期待仮説」を提唱し、自然失業率に基づく新しいフィリップス曲線(期待補正フィリップス曲線)を導入しました。
物価版フィリップス曲線は、中央銀行の金融政策や政府の財政政策を設計する際に重要な指針となります。多くの中央銀行、特に米国の連邦準備制度(FRB)は、失業率の抑制と物価の安定というデュアルマンダットを持っており、これらの目標が同時に達成できるわけではありません。テイラールールでは、インフレ率や失業率を考慮します。中央銀行が政策金利を設定する際に、インフレ目標や失業率と自然失業率の差などを考慮するのが求められます。期待インフレ率を重視し、長期的にインフレを安定させるための政策が重要です。透明なコミュニケーションや信頼性の高い政策運営が求められます。物価版フィリップス曲線は、失業率とインフレ率のトレードオフを理解し、短期的政策効果を評価するための重要なモデルです。1970年代以降、期待インフレと構造的ショックの影響を考慮することが重視され、依然として経済安定化を目指す上で価値あるツールです。