ネオ・ケインジアン

更新日:2024年10月10日

ネオ・ケインジアンとは

0世紀半ばから発展した経済学の一派であり、ジョン・メイナード・ケインズの経済理論を基盤として、主流経済学により近づける形で発展させた理論群です。ケインズの主著『一般理論』が1930年代に発表され、それに続くものとして多くの経済学者たちがこれを発展・修正し、新しい理論体系を構築しました。ネオ・ケインジアンの理論は、特にマクロ経済学や経済政策の分野で大きな影響を与えました。ジョン・メイナード・ケインズは、1936年に発表した『雇用、利子および貨幣の一般理論』において、不完全競争市場や政府の積極的な経済介入の必要性を説きました。ケインズの理論は、特に1929年の世界大恐慌後の経済復興策として高い評価を受けましたが、一方で批判も多く、論争が続く中でその理論を発展・精緻化する必要が生じました。第2次世界大戦後、ケインズの理論を基に、新しい理論を構築しようとする動きが高まりました。こうした背景から生まれたのが、ネオ・ケインジアン経済学です。当初は労働市場や価格調整の摩擦を含めた短期的な景気変動を分析するためのモデルが中心でしたが、後には経済全体の動態を説明するための理論へと拡張されました。

主な理論的貢献

ネオ・ケインジアンの代表的なモデルとして、ジョン・ヒックスとアルビン・ハンセンが独自に開発したIS-LMモデルがあります。このモデルは、ケインズの理論を数学的に表現したもので、Goods市場と資金市場の均衡を同時に考慮することによって経済の動きを説明します。ISカーブは投資と貯蓄の均衡を示し、財市場の均衡を表します。投資の増加が総需要を拡大し、結果として国民所得が増加するという連鎖を説明します。一方、LMカーブは貨幣市場の均衡を示し、貸出資金市場の均衡を表します。貨幣供給と貨幣需要のバランスを視点に、利子率と国民所得の関係を示します。IS-LMモデルは、財政政策や金融政策の効果をシミュレートするための基本的なフレームワークとして広く受け入れられました。他の重要な貢献として、A.W.フィリップスが1958年に発表した研究に基づくフィリップス曲線があります。これは、失業率とインフレーション率との間にトレードオフが存在することを示すもので、短期的な経済政策の議論に大きな影響を与えました。フィリップス曲線は、特に需要管理政策の枠組みの中で、失業とインフレーションの関係を明確にしました。ネオ・ケインジアン派は、政府の積極的な財政政策が経済安定に必要とされると主張します。政府の支出が増大すれば、総需要が拡大し、それが生産と雇用にプラスの影響をもたらすという考え方です。特に経済が不況にある場合、政府は財政赤字を恐れることなく支出を増やし、景気を刺激することが重要とされます。中央銀行が利率を調整することで経済全体のマネーストックを増減させ、総需要をコントロールすることも重視されます。金融政策の効果が資金市場を通じて、投資や消費に影響を与え、結果として経済成長を促進するという考えです。ネオ・ケインジアンは、経済における自動安定化機能の存在をも重視します。これは、累進課税や失業保険などが経済のショックを吸収し、景気を自律的に安定化させるメカニズムを指します。これにより、政府が意図的に介入しなくても、ある程度の経済安定が図られると考えられます。

批判と進化

970年代に入ると、先進国では同時に高いインフレーションと高い失業率という「スタグフレーション」の問題が顕在化しました。この現象は、フィリップス曲線の単純なトレードオフ理論では説明が困難であり、ネオ・ケインジアン理論への批判が強まりました。こうした批判に応じて、1980年代以降には「ニュー・ケインジアン」と呼ばれる新たな理論が登場しました。ニュー・ケインジアンは、価格と賃金の硬直性や情報の非対称性を組み込んだモデルを開発し、より現実的な経済分析を目指しています。デビッド・ローマーやグレゴリー・マンキューなどが、ニュー・ケインジアンの主要な提唱者として知られています。現代においても、ネオ・ケインジアンの理論は経済政策の基本フレームワークの一つとして有効であり続けています。世界的な金融危機やCOVID-19パンデミックの中では、再び政府の積極的な役割が注目され、財政・金融政策の重要性が再確認されました。新ケインジアン理論の進展もあいまって、ネオ・ケインジアン経済学は依然として経済学界において欠かせない存在です。ネオ・ケインジアン経済学は、ケインズの伝統を受け継ぎつつ、20世紀以降の経済環境に適応する形で進化してきました。その理論は、財政政策と金融政策の役割を強調し、政府介入の正当性を主張する一方で、現実の経済現象への対応力を高めるために新しいモデルを多角的に開発してきました。批判や進化を続けながらも、ネオ・ケインジアン経済学は現代経済の理解と政策立案において重要な役割を果たし続けています。