ハロッド=ドーマー・モデル

更新日:2024年10月10日

ハロッド=ドーマー・モデルの背景と基本構造

ハロッド=ドーマー・モデルは、1930年代および1940年代にイギリスの経済学者ロイ・ハロッドとアメリカのエーヴィシー・ドーマーが独立に開発した経済成長理論の一つです。このモデルは、長期的な経済成長メカニズムの解明に寄与し、経済成長の要因とその持続可能性を探求するために使用されます。20世紀初頭の経済学において、ケインズ経済学が主流だった時代には需要喚起と雇用創出が重要テーマでしたが、ハロッドとドーマーは資本の蓄積と生産力の増加に焦点を当てました。彼らは、経済全体の資本と労働の固定比率を仮定し、資本ストックと経済成長率、貯蓄率、投資関数、さらに資本係数といった要素を中心にモデルを構築しました。例えば、生産関数については固定係数生産関数(固定要素比例仮説)を採用し、資本と労働の比率が一定と考えます。また、成長率の決定要素として、資本の成長率と貯蓄率が重要であるとされ、貯蓄は所得の一定割合として定義されます。さらに、投資は資本の増加をもたらし、資本係数は経済の出力を生み出すために必要な資本の量を示す重要な指標です。

モデルの均衡成長条件と不安定性

ハロッド=ドーマー・モデルでは、経済が安定的に成長するための均衡成長率が以下の式で示されます: ¥( g = ¥frac{s}{k} ¥) ここでgは均衡成長率であり、sは貯蓄率、kは資本係数です。この式は、経済が均衡成長を維持するための必要条件を明示しています。しかし、ハロッド=ドーマー・モデルは、調整メカニズムの欠如により経済の不安定性が指摘されています。たとえば、実際の成長率が均衡成長率を上回る場合、過剰な投資が資本係数を変動させ、最終的にはインフレや資本効率の低下を招く可能性があります。逆に、成長率が不足した場合も経済の衰退を招きかねません。このように、経済の過剰成長や衰退に対して敏感であるため、持続可能な成長の達成が難しいとされています。そのため、不安定性はこのモデルの大きな課題として挙げられています。

モデルの応用と評価

ハロッド=ドーマー・モデルは、そのシンプルさと明快な結論から多くの政策分析や経済計画に応用されています。特に開発途上国における経済成長戦略の策定において有用です。例えば、国際金融機関が開発援助の効果を評価する際、このモデルが役立つことがあります。しかし、このモデルには限界もあります。労働供給や技術進歩といった他の重要な成長要因を考慮していない点が批判されています。また、資本と労働の固定比例という仮定が現実の経済状況と乖離していることも問題視されます。このため、後発の成長理論、例えばソロー・モデルなどが発展してきました。結論として、ハロッド=ドーマー・モデルは経済成長のメカニズムを理解するための基礎的なツールとして重要ですが、不安定性や現実との乖離という課題も抱えています。後発の成長理論との比較や補完を通じて、経済成長の全体像をより包括的に理解することが求められます。