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更新日:2024年10月10日
ピグー税(英: Pigovian tax)は、経済学者アーサー・セシル・ピグー(Arthur Cecil Pigou)によって提唱された税制度で、外部不経済(negative externalities)を内部化するための手段として利用されます。外部不経済とは、ある経済活動が市場を通じて関与しない第三者に不利益をもたらすことを指します。例として、大気汚染を引き起こす工場の生産活動や、喫煙に伴う受動喫煙が挙げられます。これらの現象は、企業や個人が生み出すコストが完全には市場価格に反映されないため、社会全体では過大な負担を強いる結果になります。ピグーは、このような市場の失敗を修正するために、政府が特定の経済活動に対して課税を行うことを提案しました。これが「ピグー税」です。具体的には、外部不経済の社会的費用に見合った税額を課すことで、企業や個人の行動を調整し、公平で効率的な資源配分を実現します。ピグー税の基本的なプロセスは以下の通りです。まず、政府や研究機関が、どの経済活動がどのような外部不経済をもたらしているかを特定します。対象となる外部不経済の社会的費用を計算し、それに基づいた適切な税率を設計します。この税額は負の外部性を引き起こす経済活動に直接課され、得られた税収を外部不経済の緩和や公共の福利に使うことが一般的です。例えば、CO2排出に対して課される税収を環境保護プロジェクトや医療費の補助に使うことが考えられます。
ピグー税にはいくつかの重要な利点があります。まず第一に、外部不経済を内部化することで市場価格が真の社会的コストを反映するようになり、資源の配分が効率化され、最適な社会的福祉レベルが達成されます。第二に、課税が企業や個人の行動を変え、外部不経済を引き起こす活動が減少します。例えば、CO2税を導入することで、企業はよりクリーンな技術やエネルギーを使うインセンティブを持つようになります。第三に、ピグー税から得られる税収を公共の利益に使うことができ、社会全体の福祉を向上させることが可能です。ピグー税を導入する際のプロセスとしては、まず外部不経済の特定が必要です。そのため、政府や研究機関がどの経済活動がどのような外部不経済をもたらしているのかを特定し、次にその外部不経済の社会的費用を計算します。この計算は通常、専門家の評価や経済モデルを用いて行われます。その後、これに基づいて適切な税率を設計します。例えば、1トンのCO2排出に対して一定の税額を設定することです。そして、得られた税収を外部不経済の緩和や公共の福利に使うのが一般的です。例えば、環境保護プロジェクトや医療費の補助に充てることなどが考えられます。
一方で、ピグー税にはいくつかの欠点も存在します。まず、外部不経済の正確な社会的費用を評価するのは難しく、適切な税率を設定することが挑戦となります。税率が高すぎると経済活動に過度の抑制をかけることがあり、低すぎると効果が不十分になります。さらに、特定の経済活動に対する課税が政治的に難しい場合があります。例えば、強力なロビー団体が存在する産業に対しては、税導入が困難な場合があります。また、他国が同様の税制度を持たない場合、企業が税の高い国から低い国へと移動する可能性があり、一国だけがピグー税を導入しても効果が限定的となることがあります。世界中でピグー税を応用した例は数多くあります。その一例が炭素税(carbon tax)です。例えば、スウェーデンは1991年に炭素税を導入し、それ以降、CO2排出量の削減に成功しています。また、ロンドンでは混雑税(congestion charge)を導入して、市内の交通渋滞を緩和しました。さらに、飲料に対する砂糖税も同様の理念に基づいています。例えば、メキシコでは2014年に砂糖含有飲料に対する税を導入し、国民の健康改善を図っています。ピグー税は、外部不経済を内部化し、市場の効率性と社会的福祉を向上させるための有力な手段です。理論上は外部不経済のコストを市場価格に反映させることで、最適な資源配分を実現し、社会全体の福祉を向上させることができます。しかし、適切な税率の設定や政治的な課題、国際的な競争といった具体的な実施に伴う問題も存在します。それでも成功事例が示すように、適切に設計されたピグー税は、公共政策の有効なツールとなり得るでしょう。