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更新日:2024年10月10日
ベルトラン均衡(Bertrand equilibrium)は、経済学、特に産業組織論において、価格競争の文脈で用いられる概念です。この均衡は、同質の財を生産する複数の企業が存在し、これらの企業が価格で競争する状況をモデル化したものを指します。このモデルは、フランスの経済学者ジョセフ・ベルトランにちなんで名付けられています。ベルトラン競争モデルの基本的な設定は次のようになります:複数の企業が同一品質の製品を提供しており、各企業は他の企業が設定する価格を見ながら自社の価格を設定します。企業は価格で競争し、顧客は最も安い価格を提供する企業から購入します。そして、企業は無限の生産能力を持ち、需要に対して供給が制約されないと仮定します。このような設定のもとでは、各企業が他の企業の価格を考慮したうえで最適な価格を設定しようとするため、価格競争が激化し、最終的には価格が限界費用にまで低下するという結果が理論的に導かれます。
ベルトラン均衡における特徴的な結果として、複数の企業が価格を下げ合う「価格戦争」が発生し、最終的に価格は限界費用まで低下するという現象があります。限界費用とは、追加の一単位の生産にかかるコストを指します。この過程で、企業は競争により利益をほとんど得られなくなりますが、消費者にとっては非常に有利な状況が生まれます。価格が限界費用にまで下がることにより、消費者は非常に低価格で商品を購入できるようになるため、消費者余剰が最大化されます。消費者余剰とは、消費者が支払う意思のある価格と実際に支払う価格の差であり、取引における消費者の経済的利益を示します。このように、理論的にはベルトラン均衡は消費者に利益をもたらすと言えます。
しかし、ベルトランモデルには現実の市場適用における限界が存在します。実際の市場では、企業間の価格競争がベルトランモデルで想定されるほど極端に行われることは少なく、多くの場合、企業は価格以外の要素(例えば、ブランド力や製品差別化)でも競争を行います。これにより、価格競争だけでなく多様な競争要因が市場の均衡に影響を与えるため、現実の市場分析においては、ベルトランモデルだけでなく他の競争モデル(例えばクールノー競争モデルなど)も併用することが重要となります。クールノー競争モデルは、企業が価格ではなく生産量で競争するモデルであり、ベルトランモデルとは異なる視点から市場の均衡を分析することができます。したがって、実務的な市場分析や政策決定の際には、ベルトランモデルと他のモデルを適切に組み合わせて用いることが求められます。これにより、より包括的で現実的な市場理解が可能となり、効果的な政策提言や企業戦略の策定に繋がることが期待されます。