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更新日:2024年09月10日
資本資産評価モデル(Capital Asset Pricing Model, CAPM)は、投資理論や資本市場理論で広く用いられるモデルであり、リスクとリターンの関係を定量的に評価するためのフレームワークを提供します。このモデルは特に、株式や債券といった資本資産の期待リターンを計算する際に使用されることが多く、ウィリアム・シャープ、ジョン・リトナー、ジャック・トレイナーなどの経済学者によって1960年代に開発されました。ウィリアム・シャープが1990年にノーベル経済学賞を受賞したことから、特にシャープの名前と結びつけられることが多いです。CAPMの基本的な考え方は、個々の資産のリスクとそれに対応するリターンの関係を示すことにあり、次の基本的な式で表されます:¥[ E(R_i) = R_f + ¥beta_i (E(R_m) - R_f) ¥]。ここで、¥( E(R_i) ¥) は資産 ¥( i ¥) の期待リターン、¥( R_f ¥) は無リスク資産のリターン、通常は政府発行の長期国債の利回りが用いられ、¥( ¥beta_i ¥) は資産 ¥( i ¥) の市場リスクに対する感応度を示します。さらに、市場全体の期待リターン ¥( E(R_m) ¥) は市場ポートフォリオのリターンが一般的に用いられます。CAPMの中心的アイデアは、投資家がリスクに対してプレミアム、すなわちリスクプレミアムを要求する点にあります。リスクがゼロの無リスク資産(例えば国債)に投資する場合、投資家はそのリターンとして無リスク利率 ¥( R_f ¥) を受け取りますが、リスクのある資産に投資する場合、投資家はそのリスクに対する対価として追加のリターンを要求します。このリスクプレミアムは市場全体のリターンと関連しており、個々の資産の市場リスクに対する感応度 ¥( ¥beta ¥) を掛けたものとなります。市場リスクに対する感応度は、市場ポートフォリオに対する資産の共分散を市場ポートフォリオの分散で割って計算されます。CAPMは幾つかの仮定に基づいていますが、この理論は多くの実際の応用に用いられており、例えばポートフォリオ管理、資本コストの計算、パフォーマンス評価などの分野で利用されています。
CAPMは理論的モデルであり、いくつかの重要な仮定に基づいています。まず、投資家の合理性という仮定があり、全ての投資家はリスク回避的で、資産の期待リターンとリスク(標準偏差)に基づいて投資判断を行います。次に、資産の無制限な分割可能性という仮定があり、どの資産も無制限に小さく分割可能であり、任意の比率で投資できるとされています。また、単一期間の投資視点という仮定があり、全ての投資家は同一の単一投資期間を持つことが前提となっています。最後に、完璧な市場という仮定があり、市場には税金や取引コストがなく、情報は全ての投資家に無料で完全に提供されていることが前提となっています。ベータ ¥( ¥beta ¥) はCAPMにおいて個々の資産のリスクを反映するキーとなる指標で、具体的にはベータが1の場合、資産は市場全体と同じリスクを持ち、市場が10%上昇すればその資産も平均して10%上昇します。ベータが1より大きい場合、資産は市場よりも高いリスクを持ち、市場が10%上昇すればその資産はそれ以上上昇する可能性が高いです。逆に、ベータが1より小さい場合、資産は市場よりも低いリスクを持ち、市場が10%上昇すればその資産はそれよりも少ない割合で上昇します。ベータの計算は通常、過去のリターンデータに基づいて行われ、具体的には以下のように計算されます:¥[ ¥beta_i = ¥frac{¥text{Cov}(R_i, R_m)}{¥text{Var}(R_m)} ¥]。ここで、¥( ¥text{Cov}(R_i, R_m) ¥) は資産 ¥( i ¥) のリターンと市場ポートフォリオのリターンの共分散、¥( ¥text{Var}(R_m) ¥) は市場ポートフォリオのリターンの分散です。
CAPMは多くの実際の応用に用いられており、例えばポートフォリオ管理において、投資家が効率的なポートフォリオを構築する際には各資産の期待リターンとリスクを評価し、適切なアロケーションを行うためにCAPMを利用します。また、企業が新たなプロジェクトを評価する際にもCAPMを用いて資本コストを計算し、そのプロジェクトが企業価値を増加させるかどうかを判断します。さらに、ファンドマネージャーやポートフォリオのパフォーマンスを評価する際にもリスク調整後のリターンを比較するために利用されます。しかし、CAPMにはいくつかの限界も存在します。例えば、その仮定(完璧な市場や投資家の合理性など)は現実の市場には当てはまらないことが多いです。また、ベータは過去のデータに基づいて計算されるため、未来のリスクを正確に反映しない場合があります。さらに、CAPMは市場リスクのみを考慮しているため、実際のリターンにはその他のリスク要因(例えば、企業固有のリスクやマクロ経済要因など)も大きく影響します。結論として、資本資産評価モデル(CAPM)はリスクとリターンの関係を定量的に評価するための強力なフレームワークを提供するものの、その仮定や限界を理解し、他のリスク要因も考慮に入れるために、Fama-Frenchの三因子モデルなど、より複雑なモデルの使用も検討する必要があります。CAPMの理解とともに、より高度なリスク管理手法を活用することで、投資家や企業はより精密な投資戦略を立てることができるでしょう。