ベース・マネー

更新日:2024年10月10日

ベース・マネーとは

「ベース・マネー(Base Money)」は、中央銀行が直接供給する貨幣であり、高パワー資金やマネタリー・ベースとも呼ばれています。高度な経済政策や金融政策において、ベース・マネーは極めて重要な役割を果たします。その特性と影響を理解するためには、詳細な説明が有益です。ベース・マネーは、中央銀行が供給する高パワー資金であり、通貨発行残高(紙幣と硬貨)と、民間銀行が中央銀行に預ける準備金で構成されます。具体的には以下の2つの要素から成り立っています。**現金通貨(紙幣と硬貨)**:中央銀行が発行し、流通している現金。**銀行準備金**:民間銀行が中央銀行に預けている預金。これには、強制準備(リザーブ)や回転準備(エクセス・リザーブ)が含まれます。ベース・マネーは銀行システム全体の基盤となる資金です。この資金を用いて銀行は貸出を行い、また民間部門へ資金を供給します。銀行の貸出・預金創造活動を通じて、ベース・マネーは乗数効果によって拡大され、広義の貨幣供給量(M2やM3)に影響を与えます。中央銀行は以下のような主要な手段を用いてベース・マネーの供給と管理を行います。**公開市場操作(OMO)**:中央銀行が国債などの金融資産を買い入れたり売却したりして、市場に流通するベース・マネーの量を調整します。**基準金利の設定**:中央銀行が政策金利を上下させることで、銀行の借入コストを変動させ、ベース・マネーの需要をコントロールします。**預金準備率の調整**:中央銀行が民間銀行に対する準備金の割合を上下させることで、資金供給量を管理します。

貨幣乗数と金融政策

貨幣乗数(マネタリー・マルチプライヤー)は、ベース・マネーが経済全体にどれだけ拡大するかを示す指標です。貨幣乗数は次のように表されます。¥[ 貨幣乗数 = ¥frac{広義の貨幣供給量}{ベース・マネー} ¥]貨幣乗数の変動要因には、預金利付き率、現金預金比率、強制準備率などが含まれます。通常、貨幣供給量はベース・マネーを何倍かに増幅したものであり、この増幅効果の背景には商業銀行の貸出活動があります。中央銀行は、経済の安定やインフレーションの管理、失業率の調整を目的としてベース・マネーの管理を行います。例えば、経済が過熱してインフレーションリスクが高まる場合、中央銀行は公開市場操作を通じて金融資産を売却し、市場からベース・マネーを吸収します。また、経済がデフレーションのリスクにさらされている場合、中央銀行は金融資産を買い入れて市場に資金を供給します。量的緩和(QE)は中央銀行がベース・マネーを大幅に増加させる政策手段の一つです。具体的には、中央銀行が長期国債や他の金融資産を大量に買い入れて、金融市場に流通するベース・マネーの量を大量に増やすことで、利子率を下げ、投資や消費を促進することを目指します。量的緩和は、特に通常の金融政策が機能しなくなった時に使用されることがあります。例えば、ゼロ金利制約(ZLB)に直面したとき、政策金利をこれ以上下げられない場合に、量的緩和を通じて金融緩和を実現します。

ベース・マネーのリスクと新たな挑戦

ベース・マネーの過剰供給はインフレーションを引き起こし、経済の安定を脅かす可能性があります。一方、ベース・マネーが過少であると、信用収縮が生じ、経済活動が停滞するリスクがあります。これらのリスクを適切に管理することは、中央銀行の重要な役割です。また、量的緩和が長期にわたって行われると、金融市場におけるリスク選好が高まり、資産バブルの形成や金融不安定性を引き起こす可能性があります。中央銀行は、これらのリスクを見極め、適切なタイミングで政策の転換を行う必要があります。近年では、中央銀行デジタル通貨(CBDC)の導入が議論されています。CBDCは、中央銀行が発行するデジタル形式のベース・マネーで、金融システムに新たな影響を与える可能性があります。CBDCの導入により、現金通貨の流通が抑制される一方で、デジタル通貨が新たなベース・マネーとして機能することで、金融システム全体の効率性が向上すると期待されています。ベース・マネーは、金融システムの基礎を形成し、銀行の貸出活動や貨幣供給全体に大きな影響を及ぼします。中央銀行の金融政策の中核となる要素であり、その適切な管理は経済安定の鍵となります。量的緩和やCBDCのような新たな政策手段の導入も、ベース・マネーの管理における挑戦と機会を提供しています。