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更新日:2024年10月10日
「交互進行ゲーム(sequential game)」は、ゲーム理論の一部であり、経済学、ビジネス、経済政策などさまざまな分野で活用される概念です。このゲームの形式では、プレイヤーが順番に行動(意思決定)を行い、その都度他のプレイヤーの行動を観察してから次の行動を決められます。この性質から「逐次ゲーム(sequential game)」や「動学的ゲーム(dynamic game)」とも呼ばれます。以下では、交互進行ゲームの基本的な概念、特徴、応用分野、および分析手法について詳しく説明します。交互進行ゲームの基本的な特徴は、プレイヤーが順番に行動を取る点にあります。一方が行動した後、その情報を基に次のプレイヤーが行動を決定するため、情報の非対称性や戦略の再評価が重要となります。この種のゲームは「ゲームツリー」を用いて表されることが多いです。ゲームツリーは、各プレイヤーの行動(ノード)とその選択肢(枝)を示し、最終的な結果や報酬に到達するまでの経路を視覚的に表現します。また、交互進行ゲームには「完全情報」と「不完全情報」の二種類があります。完全情報ゲームでは全てのプレイヤーが過去の全ての行動を知ることができるのに対し、不完全情報ゲームでは一部の情報が隠されている場合があります。例えば、企業間の競争である一方の企業が新技術を開発したが、その具体的な特性がまだ公表されていない場合などが該当します。
交互進行ゲームの最も基本的な解析手法は「逆向き帰納法」です。これは、ゲームの最後の決定点から逆向きに考え、その点で最も合理的な行動を選択していく方法です。この過程を繰り返すことで、最終的にプレイヤー全員の最適戦略が導き出されます。逆向き帰納法を用いることで得られる均衡状態は「サブゲーム完全均衡」と呼ばれます。これは、ゲームの任意の部分ゲーム(サブゲーム)においても、全プレイヤーが自分の利益を最大化する行動を取っていることを意味します。また、交互進行ゲームでは、プレイヤーが取る行動が他のプレイヤーに「信号(signal)」を送ることがよくあります。この信号が信用に値するかどうかが、次の行動を決定する際の重要な要素となります。例えば、価格戦略や広告戦略において、企業が市場に対して何らかの意思表示を行うことが該当します。このように、交互進行ゲームは企業間の競争戦略分析に幅広く利用されます。例えば、価格競争、製品発売のタイミング、新技術の導入、広告戦略など、企業が順々に行動を取る状況では、このモデルが有効です。特に先行者利益(first-mover advantage)や後発者利益(second-mover advantage)といった概念を考える際に役立ちます。国際貿易や外交交渉でも交互進行ゲームは大いに役立ちます。国家間の貿易交渉は通常、複数のラウンドに分かれて行われ、その都度相手国の対応を見ながら次の動きを決定します。また、制裁措置や関税問題なども交互進行ゲームとして解析できます。法的紛争や契約交渉においても交互進行ゲームの概念は重要です。例えば、和解交渉では、各当事者が相手の提案を見ながら次の行動を決定します。また、契約条項の設定や遵守にも交互進行ゲームが適用されます。さらに、政府の政策決定プロセスにおいても、交互進行ゲーム理論が利用されます。政策立案者が順々に情報を共有しながら意思決定を行い、各ステークホルダーの反応を見て最終的な政策を決定します。
公共政策分野では、環境政策、医療政策、教育政策などがその具体例です。前述の通り、ゲームツリーは交互進行ゲームの解析に非常に有効です。各ノードにおいてプレイヤーの行動や選択肢、その結果得られる報酬を明示化することで、視覚的・直感的に理解しやすくなります。一部の交互進行ゲームは数理的なアプローチやアルゴリズム解析が必要です。これには線形計画法、整数計画法、動的計画法などが含まれます。これにより、より複雑なゲーム(例えば、レベルが多い、選択肢が多岐にわたる場合)でも効率的に解を導き出すことができます。また、実験経済学では、実験室で交互進行ゲームを模擬的に行い、実際の人間の行動を観察することが行われます。これにより理論モデルの妥当性や人間の意思決定プロセスを検証することができます。交互進行ゲームは、ゲーム理論の中で重要な位置を占め、多くの実世界の問題解決に役立っています。その特徴である逐次的行動と情報の非対称性、信号と信頼性の分析は、ビジネス戦略、国際貿易、法的紛争、公共政策など多岐にわたる分野で応用されています。基本的な分析手法である逆向き帰納法やサブゲーム完全均衡、ゲームツリー解析などの手法により、複雑な意思決定プロセスを効率よく解析することが可能です。このように、交互進行ゲームの理解と応用は、多様なシーンにおいて戦略的な意思決定を支援する強力なツールとなります。